派遣社員も残業代は支給される?未払いの残業代の請求方法は?

派遣社員として働いている方は、さまざまな場面において正社員との格差を感じることがあるかもしれません。

決められた労働時間を超えて残業をした場合に、残業代が支給されるかどうかといった点も、そのひとつでしょう。

かつてはさまざまな点で存在した不合理な格差は、「同一労働同一賃金」という方針のもと、法改正をはじめとする解消に向けた動きが進められています。

派遣社員の方にも残業代は支給されるのか、その請求方法はどういうものかといった点について、今回は解説していきます。

派遣社員の契約形態

派遣社員(派遣労働者)は、パートタイマーやアルバイトと違い、登録している派遣元企業(派遣会社)から派遣されて、派遣先企業で働きます。
この場合の雇用契約は、派遣先企業との間でではなく、派遣元企業との間で結ぶことになるため、派遣労働者に対する賃金は派遣元企業から支払われます。

2020年4月から施行(中小企業においては2021年4月から施行)された改正労働者派遣法では、「同一労働同一賃金」というルールが設けられ、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)の賃金等の格差是正のガイドラインが示されています。

参考:同一労働同一賃金|厚生労働省

派遣社員でも残業代は支払われる

原則として、派遣労働者も派遣元企業との雇用契約を結ぶため労働基準法が適用され、法定労働時間を超えて働くときは、残業(時間外労働)となります。

(1)残業代はどこが支払うのか?

派遣労働者が雇用契約を結んでいるのは派遣元企業なので、派遣元企業が残業代を支払うことになります。
この場合、通常の賃金と同様に、派遣先企業が派遣労働者に直接支払うわけではありません。

(2)契約内容次第で適法に残業をさせることができないケースがある

雇用契約書や労働条件通知書に残業に関する記載がない場合、派遣労働者に残業をさせることはできません。
これは、派遣労働者も正規雇用労働者と同様に、派遣元企業との間で36協定(労使協定)を締結していなければ、残業させることはできないからです。

派遣社員の労働時間の考え方

労働時間に関する考え方は、派遣労働者も正規雇用労働者と同じです。
労働時間には、大きく分けて「所定労働時間」と「法定労働時間」があります。

(1)所定労働時間と法定労働時間

所定労働時間は、企業が定める労働時間のことをいい、労働契約や就業規則に記載されます。
所定労働時間は、労働基準法で定められた法定労働時間の範囲内で設定されることになり、派遣労働者の場合、派遣元企業がこれを決めることになります。

法定労働時間は、労働基準法第32条で「1日8時間、1週間40時間以内」と定められているものがこれにあたります。

(2)時間外労働

時間外労働とは、雇用契約で定められた所定労働時間を超えて働いた時間のことをいいます。
さらに法定労働時間を超えて働いた場合に、割増賃金が発生することになります。

時間外労働には上限時間があり、2020年4月の労働基準法改正により上限は「月45時間、年360時間」と定められました。この規定は、大企業については2019年4月から施行されています(労働基準法第36条4項)。
「臨時的な特別の事情」があれば、36協定の締結により、これを超える残業も可能となります。
しかし、その場合でも「時間外労働は年720時間以内」、「時間外労働と休日労働との合計が月100時間未満」、「2~6ヶ月の平均がすべて80時間以内」とする必要があります。
また、原則である月45時間を超えることができるのは1年のうち6ヶ月までとなっています。
これらの上限規制に違反した場合には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。

参考:時間外労働の上限規制|厚生労働省

残業代の計算方法

残業代は、基本的に以下の計算式にあてはめて算出します。
「1時間あたりの賃金(基礎賃金)×割増率×時間外労働時間」

  • まず1日8時間、週40時間を超えて働いた分の時間外労働時間(残業時間)を算出します。
  • 時間外労働の割増率は「1.25」なので、通常の時間外労働のみの場合、割増率の部分には1.25の数字が入ります。
  • 1時間あたりの基礎賃金は、月給から、個人の事情に基づいて支給される「手当」を除外した額を、所定労働時間で割ることによって算出します。「1時間あたりの賃金(基礎賃金)=(月給-手当)÷(月の平均所定労働時間)」

個人の事情に基づいて支給される手当とは、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金がそれにあたります(労働基準法第37条5項、同施行規則第21条)。

第1項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は参入しない。

引用:労働基準法第37条5項

法第37条第5項の規定によって、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第1項及び第4項の割増賃金の基礎となる賃金には参入しない。
1 別居手当
2 子女教育手当
3 住宅手当
4 臨時に支払われた賃金
5 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

引用:労働基準法施行規則第21条

なお、雇用契約で所定労働時間が7時間と定められていて8時間勤務したような場合、派遣元企業は超過した1時間分に関して割増賃金を支払う必要はありませんが、通常の賃金を1時間分支払う必要はあります(割増率を1として考えることになります)。

派遣社員は残業を断れるのか?

派遣社員でもケースによって残業を断ることは可能ですが、雇用契約で残業時間についての定めがある場合には、その時間内の残業を断ることは難しいでしょう。
もっとも、雇用契約で定められた時間以上の残業を求められた場合には、それを断ることができます。

派遣先企業からサービス残業を求められた場合は、派遣元会社に相談した方が良いでしょう。

未払いの残業代を請求する方法は?

未払いの残業代がある場合、まずは派遣元会社に請求することになりますが、請求に応じてもらえない場合にも、他にいくつか請求する方法がありますので紹介します。

(1)派遣元会社に請求

未払いの残業代がある場合、まずは雇用主である派遣元会社に連絡をして請求します。
その際には、未払い分の残業があったことを証明するため、業務日誌やタイムカードなどの証拠を準備しておくと良いでしょう。

普通に請求しても対応してもらえない場合には、郵便物の内容を公的に証明する内容証明郵便で提出しておきましょう。

内容証明郵便とは、いつ、いかなる内容の文書が、誰から誰あてに差し出されたのかということを、差出人が作成した謄本(原本の全部の写し)によって日本郵便が証明する制度です。もちろん郵便局の窓口でも差し出すことができますし、インターネットで24時間受付も行っています。

参考:内容証明|日本郵便

(2)労働基準監督署に相談

派遣元会社が請求に応じない場合には、労働基準監督署に相談する方法が考えられます。
残業代の未払いは労働基準法違反にあたるため、派遣元会社に対して労働基準監督署から調査や是正勧告などがなされることになります。

労働基準監督署は、労働基準法などの法律に基づいて労働条件や安全衛生の指導、労災保険の給付などを行っている厚生労働省の第一線機関です。

参考:労働基準監督署の役割|厚生労働省
参考:全国労働基準監督署の所在案内|厚生労働省

(3)行政ADRを活用

行政ADRとは、労働者と事業主の間で起きた紛争を、裁判以外の方法で解決する無料・非公開の手続きのことをいいます。正社員との待遇差が不合理である、待遇差の内容や理由を会社が説明してくれない、などのトラブルがこの対象となり、未払い残業代の問題も含まれます。
申立ては、労使双方から行うことが可能です。

行政ADRには、都道府県労働局長による紛争解決援助と、紛争調整委員会によるあっせんがあります。
2020年4月に労働者派遣法が改正され、派遣社員(派遣労働者)もこの手続きの対象となりました。

無償で利用することができ、裁判外紛争解決手続きの調停の成立に双方が合意した場合には、民法上の和解と同じ効力が発生します。
ただし、相手に話し合いに応じる意志がなければ利用が難しい、和解案が決まったとしても強制執行をすることができない、等のデメリットもあります。

参考:紛争解決援助制度|厚生労働省 東京労働局
参考:紛争調整委員会によるあっせん|厚生労働省 東京労働局
参考:同一労働同一賃金|厚生労働省

(4)弁護士に相談

未払い残業代を確実に請求するには、実際の残業時間を証明するための証拠の準備や、未払い残業代の計算などの専門的な作業が必要なため、弁護士に相談するのがおすすめです。

雇用主である派遣会社が話し合いに応じてくれない場合には裁判となる可能性も高いため、訴訟も含めたさまざまなことを代理で請け負ってくれる弁護士に依頼すると心強いでしょう。

派遣労働者が個人で請求をして相手にされない場合でも、弁護士が介入する場合には話し合いに応じてくれる企業は珍しくないので、裁判をせずに解決したい場合にも弁護士に相談する効果はあります。

(5)残業代請求には時効があるので注意

労働者が有する残業代請求権には消滅時効がありますので、請求の際には注意しましょう。

民法改正の影響により、残業代請求権の時効期間は以下の2種類があります。

  • 支払日が2020年3月31日までに到来する残業代の時効は2年
  • 支払日が2020年4月1日以降に到来する残業代の時効は3年

【まとめ】派遣社員にも残業代は支給されます!

今回の記事のまとめは以下のとおりです。

  • 派遣社員(派遣労働者)でも、正規雇用労働者と同様に残業代は支払われます。もっとも、雇用契約書に残業の記載がない場合や派遣元会社と36協定を締結していない場合は、残業自体をすることができないので注意が必要です。
  • 労働時間についての考え方は、派遣労働者の場合でも正規雇用労働者と同様です。
  • 派遣労働者でも、派遣元会社との雇用契約で定められている規定以上の残業を求められた場合には、残業を断ることができます。
  • 未払いの残業代の請求方法は、派遣元会社に請求する、労働基準監督署に相談する、行政ADRを活用するなどいろいろなものがありますが、裁判にも対応できる弁護士に相談するのがおすすめです。

残業代が支払われずに困っている派遣社員の方は、弁護士にご相談ください。

この記事の監修弁護士
髙野 文幸
弁護士 髙野 文幸

弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。

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